『SIX』観劇

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9月に念願の『Waitress』を観終えて、次に観に行くことにしたのが、英国王室ヘンリー8世の6人の王妃を題材とした『SIX』です。2017年にエディンバラ・フリンジ(毎年8月、スコットランド・エディンバラで数週間にわたって行われる世界最大の芸術祭)で初演、その後英語圏の国々を中心に上演が拡大しているミュージカルです。

今ブロードウェイで最も勢いがあるといっても過言ではない新しいミュージカルで、制作者は現在27歳のToby Marlow。脚本の執筆はケンブリッジ大学在学中から行われていたとのことで、友人のLucy Mossとの共同制作でした (公式YouTubeチャンネルでインタビューの様子を見ましたが本当にお若い!)。Wikipedia情報によると、Marlowは当時履修していた詩のクラスで「6人の妻のポップコンサート」という案を思いつき、卒業学年の試験期間とも重なっていながらも、並行してこの舞台制作に励んでいたようです。ヘンリー8世の6人の妻に関する著作を読みつつ、ビヨンセのコンサートにも出向き、舞台化のイメージを膨らませました。

現在ブロードウェイで上演されているバージョンでは、6人の王妃がミュージカル当日だけ蘇り、自身の境遇や結婚生活について歌い、誰が最も酷い目に遭ったかを競うという形で進行していきます。それぞれの王妃に割り当てられている楽曲は、ポップ・ミュージックの女王たちからインスピレーションを受けています。

観劇当日は満員!

Catherine of Aragon (キャサリン・オブ・アラゴン 1485-1536) – スペイン王フェルディナンド5世の娘で、ヘンリー8世の兄アーサーの未亡人※。家柄は6人の中で傑出している。ヘンリー8世とは24年の結婚生活を送り6人の子を出産したが、成人を迎えることができたのは次女メアリーのみ。教養があり思慮深い良妻だったにもかかわらず、ヘンリー8世と不倫関係にあったアン・ブーリンとの婚姻を推し進めるため離婚を言い渡される。1533年、48歳の時にヘンリー8世と離婚。(※アーサーの死後、通常であれば結婚時の持参金がキャサリンの家に返却されるが、莫大な持参金を惜しみ、ヘンリー8世との結婚が推し進められた。)

  • イメージカラー:◆ゴールド&イエロー◆ (権力と威信の象徴、真の女王を体現する存在)
  • 楽曲イメージ:Beyonce and Shakira
  • ソロ楽曲:”No Way” (視聴はこちらから)

Anne Boleyn (アン・ブーリン 1500?-1536) – ウィルトシャー伯 トーマス・ブーリンの娘。フランスの王ルイ7世へ嫁いだヘンリー8世の妹メアリーに仕えるため12歳頃から7~8年フランスで過ごした。イングランドへ帰国後、キャサリン・オブ・アラゴンの侍女として仕えるが、ヘンリー8世に見初められる。1533年、キャサリン・オブ・アラゴンとの離婚を無理矢理成立させたヘンリー8世と結婚する。出産した子の中で生存できたのはエリザベスのみだった。1536年、王への反逆罪で斬首される。

  • イメージカラー:◆グリーン◆ (民謡グリーンスリーブスからの連想。この曲は、ヘンリー8世がアン・ブーリンについて書いたものという伝説がある)
  • 楽曲イメージ:Lily Allen and Avril Lavigne
  • ソロ楽曲:”Don’t Lose Ur Head” (視聴はこちらから)

Jane Seymour (ジェーン・シーモア 1509-1537) – ジョン・シーモア卿の娘。アン・ブーリンに仕える女性の一人だった。1535年頃ヘンリー8世に見初められる。アン・ブーリンの処刑後11日して結婚し、翌年に男児を出産する。産褥熱に苦しみ、出産の9日後に亡くなった。ヘンリー8世が唯一”本当に”愛した女性と言われており、ウィンザー城のSt George Chapelにヘンリー8世と共に埋葬されている唯一の妃。

  • イメージカラー:◇ホワイト◇ (ヘンリー8世が唯一本当に愛した女性という言い伝えから、ウェディングドレスや純潔を連想させる白)
  • 楽曲イメージ:Adele and Sia
  • ソロ楽曲:”Heart of Stone” (視聴はこちらから)

Anne of Cleves (アン・オブ・クレーブス 1515-1557) – ドイツのプロテスタント有力貴族クレーブス公の娘。 ヘンリー8世の側近であるトーマス・クロムウェルが、ヴァチカンから破門されたイングランドの勢力回復を狙い推薦した花嫁候補のひとりがアンだった。ヘンリー8世は、宮廷画家ハンス・ホルバインによるアンの肖像画を見て結婚したが、イングランドで流行している文学や音楽に疎いアンを気に入らず、半年で離婚した。しかし離婚後も王室との友好関係を上手く保ち、再婚せずとも経済的にも裕福な生活を送ったため、6人の王妃の中で最も幸福であったと考えられている。

  • イメージカラー:◆レッド◆ (ドイツ国旗からの連想、活力・情熱の象徴)
  • 楽曲イメージ:Nicki Minaj and Rihanna
  • ソロ楽曲:”Get Down” (視聴はこちらから)

Katherine Howard (キャサリン・ハワード 1521?-1542) – エドモンド・ハワード卿の娘でアン・ブーリンのいとこ。ノーフォーク公 (カトリック) の姪。ヘンリー8世の側近であるトーマス・クロムウェルが、ノーフォーク公の政敵であったことから利用され、結婚させられる。結婚当時は19歳頃で、魅力的かつ奔放な性格が災いし不貞を重ねたことから反逆罪で処刑される。

  • イメージカラー:◆ピンク◆ (若さ、少女らしさの象徴)
  • 楽曲イメージ:Ariana Grande and Britney Spears
  • ソロ楽曲:”All You Wanna Do” (視聴はこちらから)

Catherine Parr (キャサリン・パー 1512-1548) – トーマス・パー卿の娘。2度結婚したがいずれも夫に先立たれた。ジェーン・シーモアの兄トマスと交際関係にあったが、宮廷に出入りするうちにヘンリー8世に見初められ結婚する (トマスは海外公務に飛ばされた)。聡明で心優しく、特に神学に精通しており、ヘンリー8世と学術議論を交わした。また、庶子として冷遇されていたメアリー (キャサリン・オブ・アラゴンの娘) や、エリザベス (アン・ブーリンの娘) の教育に気を配り、慕われた。英国で初めて自身の名前で著書を出版した女性としても知られている。Prayers or Meditations (1545) / The Lamentation of a Sinner (1547)

  • イメージカラー:◆ブルー◆ (知性、賢明さの象徴)
  • 楽曲イメージ:Alicia Keys and Emeli Sande
  • ソロ楽曲:”I Don’t Need Your Love” (視聴はこちらから)

ソロ楽曲6曲のほか、オープニングには”Ex-wives“、アン・オブ・クレーブスのソロ曲前は”Haus of Holbein“、ラストに”SIX“が歌われます。明るいながらも残酷で、自虐と皮肉、団結と希望が入り混じる名曲ぞろいです。6人揃うと、クラスや部活の集まりのようで、お姉さんポジションのキャサリン・オブ・アラゴンとキャサリン・パーが場のまとめ役になっています。アン・ブーリンは率直でギャルっぽく、ジェーンはやや空気の読めない真面目さん、アン・オブ・クレーブスはクールな男前、キャサリン・ハワードは浮遊感ある危ういティーンエイジャーといった感じです。

前回に引き続き、今回も事前にセリフと曲の内容を予習して臨みました。特にCatherine Parrの楽曲に惹かれ、公式配信されているスタジオ・レコーディング版を聴きこんで行ったんですが、ライブの威力はすごかった!いや~泣けました…。Catherine Parrの楽曲は3段階の構成になっておりまして、

  1. 【切ない別れ】ヘンリー8世からの求婚を退けることができなかった女性が、元々恋愛関係にあった人に別れを告げる
  2. 【王への拒絶】もし自由な発言が許されるなら、自分はヘンリー8世のおもちゃではないし、愛してもらう必要はないと声を上げる
  3. 【自分自身のストーリー】「ヘンリー8世の妻」であることだけが私のストーリーではない、作家であり女性の教育に携わったことこそ自分の語りたい内容である

以上の3点を歌い上げることが求められています。アン・ブーリンやキャサリン・ハワードの曲に見られるようなコミカルさは一切なく、真摯なメッセージを伝えなければなりません。そういう意味で、説得力のある歌い方ができる人でなければ務まらないと思いますが、演者のAnna Uzeleさんは私の予想をはるかに超える抜群のパフォーマンスを披露してくださいました。曲のラスト部分(以下参照)なんて、あまりのカッコ良さに痺れました。

So I sent that letter to my love,

Got married to the king,

Became the one who survived.

I’ve told you about my life, the final wife.

But why should that story

Be the one I have to sing

Just to win? I’m out

That’s not my story.

There’s so much more, remember

That I was a writer,

I wrote books and psalms and meditations.

For, for female education

So all my women could independently study scripture.

I even got a woman to paint my picture.

Why can’t I tell that story?

‘Cause in history

I’m fixed as one of six.

And without him,

I disappear.

We all disappear.

それから私は愛しい人に手紙を送り

王と結婚し

生き残った人となった

私の人生や、最後の妻であることを語ってきたけれど

なぜその物語を

勝つためだけに歌わなければならないのだろう

それなら私は降りる

それは私の物語ではない

(伝えたいことは)もっとたくさんある、忘れないでほしい

私は作家であり

本を執筆し、詩や瞑想について書いてきた

女性の教育に関わり

私の知る女性たちが自分で聖書を学べるようにしてきた

私の肖像画を描いてくれる女性さえいた

なぜその物語を伝えることはできないのだろう

その理由は 歴史において

私が6人のうちのひとりに定められているから

そして彼がいなければ

私は消える

私たち全員が消える

最後のアンコール曲では、お客さんも総立ちになり全員で踊りながらエンディングを迎えました。大きな感動を覚える素晴らしいミュージカルです。また機会があったら2度目を見に行ってみたいなと思います。