『Hadestown』観劇

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3月に入り、バルコニー席がお得になっていた『Hadestown』(ハデスタウン/ヘイディーズタウン)を観てきました。しばらく前からタイムズ・スクエア駅の構内に宣伝が貼られていたのと、Spotifyでたまたま聴いたHadestownの曲が好みだったので興味を惹かれ、行ってきました。会場はWalter Kerr Theatreです。

※以下、日本語での呼称をカッコ内の最初に、英語の発音に近い呼称を後に記述します。(ハデスタウン/ヘイディーズタウン)

今回はバルコニー席の端っこを押さえました。劇中の回転床の仕掛けが見渡せる好位置でした。

ブロードウェイでの上演は2019年から(Off broadwayでは2016年にも) 始まっており、現在2021-22年の上演も2019年の時とほぼ同じキャストで続けられています。いつものごとく全編の予習をしなければ気が済まなかったので、事前にSpotifyの音源を聞き込み、台本を読んでおいたのですが、「予習したのと同じ声の人が出演している!」とそれだけで大きな感動がありました。キャストはベテラン勢が頼もしく、最高齢はHermes役のAndré De Shieldsさん、76歳!冒頭の登場シーンでは、何も喋らない状態で身動きだけで観客の注意を自分に引きつけるという芸当をやっておられて驚きました。長く俳優をやってこられた経歴と自信がそうさせるのか、大勢の観客の前で無音でも一切焦らない姿にプロを感じました。

ストーリー (ちゃんと書けるか不安)

ギリシャ神話で語られるOrpheus(オルフェウス/オーフィアス)とEurydice(エウリュディケ/ユーリディシー)の物語と、Hades(ハデス/ヘイディーズ)とPersephone(ペルセポネ/パーセフォニー)の物語をミックスした内容になっています。舞台の第一幕は、神話を現代版にアレンジし、町の酒場を思わせるセットに労働者の格好をした客たちが座っているところから始まります。

天賦の音楽的才能を持ったオルフェウスは、歌うことで自然に活気を与え春を呼び込む、という特別な能力を持っている。ギターを片手に酒場で創作に励むオルフェウスは、客として来たエウリュディケに恋に落ちる。これまで冷たい風に凍え、空腹に耐えてきたエウリュディケは、オルフェウスの温かい歌や愛情に心を動かされ、結婚の約束をする。季節が秋から冬に変わろうとしていた頃、エウリュディケは再び寒気と空腹に耐えきれなくなり、オルフェウスに話しかけるものの、彼は創作に夢中で彼女の嘆きに気づかない。エウリュディケはオルフェウスの元を離れ、食べ物を求めて嵐の中をさまよう。

秋を地上の酒場で過ごした酒好きのペルセポネは、夫ハデスの元に帰るため、地下世界にあるハデスタウン行きの汽車に乗る。妻の帰りを待ちわびているハデスが地上に出ると、空腹と寒さに苦しむエウリュディケを見つける。「一緒に来れば寒さも空腹も感じないで済む」というハデスの言葉に誘われ、エウリュディケは地下世界行きの汽車に乗ってしまう。

地下世界ハデスタウンは、ハデスが支配する炭鉱街を思わせる町で、“Keep your head low”(頭を低くせよ)、“Build the wall”(壁を作れ)の合言葉の元、町の住人たちが過去の自分を捨て、一心不乱に労働に身を捧げている場所だ。ここでは、ハデスと住人たちの間で「壁を作ることで敵を寄せ付けず、自分たちの身を守ることができる」、「敵とは貧困であり、貧困とは持たざるものが陥る状態」、「私たちには壁を作るという労働があり、その労働には終わりがない。私たちには労働があり、持たざるものにはなり得ない」という独特のルールが存在している。エウリュディケもいつしかその住人たちと同じ生活をするようになり、町の住民としての契約書にまでサインをしてしまう。

エウリュディケがいなくなったことに気づいたオルフェウスは、地下世界と地上世界を行き来する使者ヘルメスによって、彼女が地下世界に行ったことを知る。彼女を追いかけ、長い道のりの果てにようやくハデスタウンに着いたオルフェウスは、彼女を連れ帰りたいとハデスに懇願する。契約書の存在を知らされたオルフェウスは悲嘆に暮れるが、ハデスの前で歌を披露することによって、心に揺さぶりをかける。オルフェウスが歌った曲の中には、昔のハデスとペルセポネの物語も織り込まれていた。ハデスは譲歩し、地上世界へ戻ることを条件付きで認める。その内容は、「オルフェウスが前を歩き、エウリュディケが後ろを歩く。オルフェウスは地上に到着するまで後ろを振り返ってはならない。」というもの。元の世界に戻るため、オルフェウス&エウリュディケは歩き始め、地下世界の出口を目指す。(ドラマチックな結末については書かないでおきます)

感想

ベテラン勢の堂々とした余裕ある熱演を楽しめる舞台だったな〜と思いました。回転床が特に後半、何度も何度も活用されていたのが印象的でしたが、目は回らないんだろうか。楽しみにしていた曲“All I’ve ever known”が聴けたのと、ハデスタウンの怪しい宗教施設っぽさをじっくり見られたのが良かったです。ハデス役のPatrick Pageさん、地鳴りがするかと思うような低音の声を巧みに使って住人たちとコール&レスポンスをしていたのが、カリスマ支配者とその信者という関係に見えました。その妻ペルセポネ役のLana Gordonさんの歌と踊りも格好良かったです。あまり夫にとらわれず、自由にお酒を飲んで踊っているところが魅力的でした。

全体を通してシリアス寄りなので、軽めの笑いを求めている人にとっては向かないかなと思います。ただ、他の演目ではなかなかないような重層的で複雑なハーモニーを聴くことができるのと、「冥界の王とやらがいるなら確かにこんな人かもな」と想像力をたくましくすることができるので、いつもと少し趣向を変えてみたい人にはおすすめです。