Book of the Month (2021/10)

book opened on white surface selective focus photography
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読書

先日、Upper West SideエリアにあるShakespeare&Co.書店を見て回っていたところ、レジ付近にこんな本が置いてありました。

店員のおすすめ本が包装紙にくるまれていて、何が入っているかは開けてみてのお楽しみ。どんな魅力的な作品が読めるのかという期待半分、全く好みじゃなかったらどうしようという不安半分で開封してみたところ、中に入っていたのは、Anissa Gray著 The Care and Feeding of Ravenously Hungry Girls (2019) でした。希望としては、ここ数年の間に出版された新しい作品を読みたいと思っていたのと、女性が奮闘するストーリーを欲していたので、狙い通り!Amazonやgoodreadsを探ってみると、熱いレビューが多く寄せられていたので早速読み始めました。

表紙 (このデザインから、女性を題材にしたおしゃれで洗練されたストーリーを期待している人もいたようで、思ってたのと違った!というレビューがいくつかありました)
裏 (ペーパーバックは裏に簡潔なあらすじがまとめてあっていいですよね)

あらすじ:ミシガン州の小さな町でレストランを営むAltheaと夫のProctorは、最も尊敬を集める夫婦であったが、とある詐欺を働いた罪で、ある日警察に逮捕される。彼らの双子の娘Baby ViとKimは、Altheaの妹Lilianの元で暮らし始めるが、両親の逮捕が彼女たちの日常生活に影響を与えないはずはなく、特にKimは学校生活に上手く適応できず、食事もろくに喉を通らない。Lilianは、Altheaのもう一人の妹でシカゴに住むViolaを呼び寄せ、Kimのケアをしようと試みるが、ますます固く心を閉ざされてしまう。若い姪たちの世話だけでなく、Lilianは離婚した元夫の祖母の面倒も見ており、Violaは別れたばかりのパートナー、Evaとの関係に悩んでいる。一方、刑務所生活を送るAltheaは、薄暗く清潔とは言いがたい生活環境で日々をやり過ごしながら、様々な罪を犯したであろう受刑者たちと接する。娘たちのことが気にかかるものの、自分とは何かと折り合いが悪くProctorにだけ懐いているKimについて、自分の手に負えない存在だと感じるようになる。そんな中、ある日突然KimがLilianの家から失踪する。

感想:★★★★☆

前半で登場人物の関係性をつかむことができれば、後半はどんどん引き込まれます。「家族」を題材にしている物語の場合、親・きょうだい間のパワーバランス、仲の良さ、確執を読み取ることが重要ですが、この作品はButler家4きょうだい (Althea, Joe, Viola, Lilian) の関係が複雑で、後半に明かされるLilianの過去にはとりわけ胸が痛みました。”Traveling Evangelist”で育児放棄気味の父、早くに亡くなってしまった母を持つAltheaが、自分を奮い立たせて生きるのはどれほど大変なことだっただろうかと思います。ただ、その厳しい生き方がBaby ViやKimへの接し方にも表れてしまっているせいで、Kimはかなり息苦しかったように見えます。(Baby Viは作中にもある通りViolaっぽい性格なので、うまくAltheaと付き合えたんでしょう。)

Altheaの刑務所仲間であるMercedezは、聖書クラブ的な活動のときもリーダーシップを発揮して頼もしい様子でしたが、最後まで活躍が見られて嬉しかったです。eating disorderを患っている登場人物が複数いる中で、「ちゃんと食べなさい」と (たとえそれがチョコレートバーであっても) 言ってくれるMercedezは貴重な人ですね。最初の刑務所生活シーンを読んでいるときは息が詰まりそうでしたが、中盤以降は会話が増えて安心しました。部屋や空間の薄汚い描写は、読んでいる側にとってはつらいですが、よくここまで詳細に描けるなあと感嘆しました。

数ある優れた描写の中で私が特に好きなのは、Baby Viとチェーン店に行ったViolaが、「ティーンエイジャーなのに紅茶のストレートしか頼まない」ことに内心驚いて、Baby Viが実年齢よりはるかに大人なのではないかと思い至る場面です。周りを見ると、甘い飲み物を頼んでいたり、あれこれと食べていたりするのに、そうしないところに注目していて、鋭い視点だなあと思わざるを得ませんでした。これがデビュー作だそうなので驚きですね。次に読む本も楽しみです。