Book of the Month (2021/12)

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読書

12月の課題図書は、この数か月に渡ってブックランキングの上位を占めている、Sally Rooneyの新刊 Beautiful World, Where Are Youです。先日、散歩がてらUpper East Sideの The Corner Bookstore に入ったときに、小学生のお子さんを連れたお母さんが、店員に「Sally Rooneyの新刊あります?すごく面白いって聞いて、読んでみたいんですよ」と尋ねているのが聞こえました。店員はすかさず「本当に人気あります。私も読み始めたら止まらなくて、あっという間に読んじゃいました」と返答。そのお母さんは、他にも何冊か目星をつけていた本を高速でピックアップし、「この子のお姉さんが中学生なんだけど、読書には興味がなさそうでね~…」とぼやき、お会計。ものの数分で本屋を後にしていました。この一部始終を見て、こんな忙しそうな女性が、少ないであろう自分の休み時間を使ってまで読みたい本なら、私も読まないと!という使命感に駆られました。というわけで、12月の課題図書に決定。

Sally Rooney著 Beautiful World, Where Are You (2021)

あらすじ:アイルランド北西部にある海辺の町に引っ越してきたAliceは、アプリを通じてFelixという男性と知り合いになり、自分の家を見に来ないかと誘う。連れられたFelixが見たのは大きな「牧師館」(rectory)で、Aliceはそこに一人で住んでいると言う。実は彼女は世に知られたベストセラー作家だった。思いがけず著名人と知り合いになったFelixは、Aliceから持ち掛けられたローマ出張への同行を承諾する。

ダブリンの小さな雑誌社に編集者として勤めるEileenは、Aliceの大学時代の親友であり、長文のメールを送り合う仲である。Eileenは仕事の休憩中、偶然幼馴染のSimonとカフェで再会する。昔から変わらず親身に接してくれるSimonはEileenが最も慕う人である。しかし、様々な葛藤やタイミングの悪さから、EileenはSimonに中途半端な友好関係を求めてしまう。

感想:★★★★☆

まず、何よりAlice & Eileenの交わす真剣なメールのやり取りに憧れました。近況報告に始まり、自分が最近考えていること(時に哲学的な内容まで!)を長さを気にせず送り合える仲って素晴らしい。ひとりは小説家、もうひとりは大学時代の成績優秀者ですから、読み応えがあるのはもちろんですね。学術的な内容で言うと4章&6章の青銅器時代の話、Linear Bの解読関連は面白かったです。「Simonに私はfertile lookって言われたけど、それってどういうことだ?」と書いちゃうEileenの手紙も面白かった。AliceもEileenも、FelixやSimonを前にすると本音を言えない(むやみに語らない)ことが多々あるので、メールは彼女たちにとって素直になりやすい場なのかもしれません。

終盤 (Aliceの家で全員集合) を読んでいる時、知り合って日の浅いFelixは割とズケズケ物を尋ね、また痛いところを突くので、Alice & Eileenの精神状態を心配しました。どっちに対しても、「なんでも自分の思い通りになると思うな」という旨のことを言っていましたね。まあ、一部当たってるとは思いますが、Felixの刹那的というか、やや退廃的な生活ぶりの方が危うくて気になりました。

Eileenは、明らかにSimonが好きなのに、幼少期からの経験が影響して、「どうしたらSimonを失わずに済むか」にとらわれているのが随分歯痒かったです。「将来別れることになるのは辛すぎるので、それなら今まで通り友達でいよう…」と、相手に確認を取らぬまま急に消極的になってしまうのは、少女漫画とかで見たことのある展開です。Simonは作中一のイケメンで、細やかな気遣いでEileenを支えているところがとても素敵でした。終盤は、コロナ事情も絡めたエンディングになり、それぞれが新しい未来を見つけます。Eileenが元気になって私も安心しました。なぜかEileenに対しては、おばさん目線になってしまう私…。

巻末の短編 Mr Salaryも面白いです。大学を卒業した主人公の女性と親戚のおじさんとの物語で、まあ~お洒落です!2人の会話が軽妙で、良い感じ。というわけで、最後まで楽しめる作品です。