Book of the Month (2021/11)

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読書

11月の課題図書は、10月の本紹介でも載せたShakespeare & Co.書店で見つけました。この書店の「Staff Picks」コーナーが好きなんですよね。なんとなく、Upper West Side店の方が品揃えと言うか書店の雰囲気が好みです。

Ann Patchett 著 The Dutch House (2019)

あらすじ:1940年代後半、不動産事業の成功によって資産家となったCyril Conroyは、フィラデルフィア郊外の大邸宅 The Dutch House を購入する。その豪奢さは、まだ幼い娘Maeveと息子Dannyを喜ばせたものの、妻Elnaにとっては身の丈に合わない裕福すぎる住まいだった。やがて夫婦の関係が上手くいかなくなり、Elnaが子どもを残して家を去ると、Andreaという女性がCyrilの新たな妻として迎えられる。Andreaの登場により、MaeveとDannyの生活は一変することになる。

感想:★★★★★

ある日突然、「この家を買いました、一緒にここで暮らそう」と配偶者に言われたら、どんな気持ちになるでしょう。Conroy家の父Cyrilは、大邸宅プレゼントというビッグサプライズを妻Elnaに仕掛けたわけですが、見事にドン引きされてしまいます。Elnaはその頃世界の貧民に思いを馳せていたこともあり、夫と価値観がかみ合わなかったことをきっかけに、Conroy家を離れてしまいます。それがこの一家の悲劇の始まり。

読みながら、子どもを残して失踪するElnaや、Cyrilの再婚相手となりMaeveとDannyに残酷な選択を迫るAndreaを見ていると、もう悲しくてたまりませんでした。レビューサイトのGoodreadsでも、この母&継母へ怒りをぶつける読者が多数…。そういうわけで、MaeveとDannyは精神的な面では親に頼ることができないので、以後数十年にわたってお互いを思い合い、支え合います。私はきょうだいの絆ものには弱いのですが、想像していた以上に2人の境遇が厳しく、親のような心でとにかく心配していました。

好きなシーンはたくさんありますが、特に好きなのは以下。

We ate the cookies and dredged up every awful memory of Andrea we had. […] We talked about how late she slept and every flattering dress she’d worn and how she would spend an hour on the phone with her mother but would never invite her mother to the house. She wasted food and left the lights on all night and gave no evidence of having ever read a book. (p.109)

僕たちはクッキーを食べながら、Andreaとのひどい思い出をすべて掘り返した。彼女がどんなに遅く眠っていたかや、着ていた見栄えのいいドレスについて話した。また、彼女は母と1時間も電話しておきながら、決して家には招こうとしなかったことも話した。彼女は食べ物を無駄にし、夜通し電気をつけたままにし、1冊の本すら読んでいる痕跡はなかった。

The Dutch Houseに勤めていたかつてのお手伝いさんたちと、Maeve & DannyでAndreaの悪口大会をする場面です。この辺りを読んだとき、小説家というのはすごいと改めて感じました。登場人物の会話や感情をありありと描写しなくても、その人の習慣や行動を淡々と記すことによって、どんな人であるのか読者に分からせる力があるからです。Andreaは作中随一の曲者ですが、こういう生活をしている人なのだと知って、好きになれないのも当然かなという気持ちにさせられました。MaeveとDannyの心の傷は計り知れないほどだったはずですが、皆で集まり悪口を言ってちょっとした笑いにすら変える様子を見て、困難を乗り越える強いハートが彼らに備わったのだと感じました。

悲しい展開も多いですが、作品中盤以降でコロンビア大生には馴染みの地名がたくさん出てくるのは嬉しかったです。このブログでも紹介したThe Hungarian Pastry Shopも登場します。

オーディオ版は、なんとあのトム・ハンクスが朗読を担当しています。散歩しながらオーディオ版を聞いているのですが、演じ分けが巧みで素晴らしいです(少女のMaeveがそこにいるような錯覚を覚えるほど!)。Audible版はこちらから。

次に読む本も決まっているのでワクワクしています。皆さん楽しい読書ライフを!