Book of the Month (2022/2)

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読書

2月の課題図書は、The Dutch Houseを読了して以来ファンになった、Ann Patchettの最新エッセイ集 These Precious Days (2021) です。発売当初から話題を集め、オバマ元大統領が公開している昨年末のブックリストにもランクインしました。(ちなみにこのリストには、先月読了したMichelle ZaunerのCrying in H Martも入っています。) 確か発売が昨年のサンクスギビングのあたりだったので、発売してから2か月ちょっと?で読み終えたことになり、波に乗れたような良い気分です。今回は、運良くサイン本を手に入れられました!

Ann Patchett 著 These Precious Days (2021)

感想:★★★★★

このエッセイ集には、The New York Timesを始めとする新聞や雑誌に寄稿したエッセイ、招待講演の内容の再録と数本の書き下ろしが収められています。どれもとっても面白いです。太字になっているタイトルは、特に好きなエッセイです。

  • “Three Fathers”: 著者の3人の父についての話
  • “The First Thanksgiving”: 大学生時代、友人宅で過ごしたサンクスギビングの思い出
  • “The Paris Tattoo”: 19歳の夏、パリで見かけたウェイトレスのタトゥーが気になる話
  • “My Years of No Shopping”: 友人に刺激されて買い物をやめる話
  • “The Worthless Servant”: ナッシュビルで有名な聖職者にインタビューした話
  • “How to Practice”: 断捨離した話
  • “To the Doghouse”: Peanuts (スヌーピー) の魅力
  • “Eudora Welty, an Introduction”: ミシシッピ州の作家 Eudora Weltyの作品の面白さについて (*Eudora Weltyの短編集に前書きとして掲載されたものを収録)
  • “Flight Plan”: 夫Karlの趣味・飛行機操縦について
  • “How Knitting Saved My Life. Twice.”: 趣味の編み物の話
  • “Tavia”: ケンタッキー州で自然保護活動を行う長年の友人Tavia Cathcartの紹介
  • “There Are No Children Here”: 出産・子どもについての考え
  • “A Paper Ticket Is Good for One Year”: 昔買って使えなかった航空券の話
  • “The Moment Nothing Changed”: 赤ん坊を連れた母親に、夫Karlが飛行機内でかけた言葉
  • “The Nightstand”: 「ナイトスタンドからあなた宛ての手紙が出てきたんですけど…」と、見知らぬ人から連絡を受けた話
  • “A Talk to the Association of Graduate School Deans in the Humanities”: 大学生活 (Sarah Lawrence College) について
  • “Cover Stories”: これまでに出版してきた本の表紙に関する話
  • “Reading Kate DiCamillo”: 児童文学作家Kate DiCamilloの作品の魅力
  • “Sisters”: 「姉妹ですか?」と尋ねられ続けた母について
  • “These Precious Days”: トム・ハンクスのアシスタントSookiと過ごした日々
  • “Two More Things I want to Say about My Father”: 筆者の作家活動と父との思い出
  • “What the American Academy of Arts and Letters Taught Me about Death”: アメリカ芸術文化アカデミーの会員に選出されたときのエピソード

以前The Dutch Houseを読んだときに、オーディオブックの朗読がトム・ハンクスだなんて豪華だな~と思っていたのですが、なぜそういう話になったのか、経緯がよくまとめられていました。①推薦文目当てで、アン・パチェットさんの元にはいつも大量の本が送られてくる、②その中にトム・ハンクスが出版したばかりの本も入っていた、③たまたま手に取ったその本がきっかけで、トム・ハンクスと刊行イベントを一緒に行うことになった、④The Dutch Houseオーディオブック版を依頼した、とこういう流れだったようです。トム・ハンクスの時もそうですが、ジョン・アップダイクやその他著名人に会った時のアンさんの反応が普通のファンっぽくてかわいい。時々言及される好きな作家・作品はセンスに満ちていて、私も影響されて、ついEudora Weltyの短編集を買ってしまいました (届いてみたら分厚かった!)。これから読む本がまず2冊あり、短編集はその後になりそうです。

エッセイを読みながら、自分がなぜこんなにアンさんの文章にハマるのかずっと考えています。シンプルで淡々とした文体、大笑いというよりはクスっとさせてくれるユーモア、フィクション性を持たせた日常の語り…いろいろ考えてはみるものの、定まり切ることのない魅力があります。小説の執筆過程についてもこのエッセイ内で説明があるのですが、ほとんど下書きをしないで、常に本番というか、納得のできる一文ができるまでずっと練り続けるそうです。小説内の登場人物について、ご家族から「なんでこのキャラクターは煙草を吸うの?吸う必要ないでしょう」と指摘されても、「そういう人なんです」とズバッと返答しているところを見ると、必要・不必要を軸に執筆していないことがよく分かります。幼い頃から書くことが好きで、とにかく作家になりたかったというアンさんには、一貫した執筆スタイルがあることが窺えて興味深かったです。ますますファンになっちまいます。

“The Nightstand”は、まるで小説のような展開で、特に序盤の電話相手とのやり取りには何度も笑わせてもらいました。私が特に好きなのは”Sisters”の締めくくりで、若々しく美しい母と一緒にいるところを見られると常に「姉妹のようだ」と言われ続けてきたアンさんが、母の晩年に看護師からかけられた一言…見事なまとめ方に感嘆しました。全編を通し、巧みでありながらあっさりとしていて、小説家らしい虚構っぽさが混じるエッセイになっていて、うわ~最高だ~!という気分にさせてくれます。アンさんのファンを名乗るには、既刊本をもっと読んでから…と自分を戒めているところなのですが、きっとおそらく、他の作品を読んでもこの気持ちは変わらないのでは?という予感がしています。

1月・2月は連続のエッセイ月間でしたが、次の課題図書は小説に戻ります。楽しみです。