‘The Hill We Climb’ (1)

英語学習

先月下旬の大統領就任式で話題となったアマンダ・ゴーマンさん (Amanda Gorman) の詩の朗読パフォーマンスには、私も感銘を受けました。深みのあるパワフルな声はもちろんですが、詩に散りばめられている数々の仕掛けも素晴らしく、英語という言語の面白さと可能性を再確認させてくれます。朗読パフォーマンスはこちらから

以下、私自身で訳を試みながら、思わず唸ってしまった詩のテクニックや使われている言葉の背景について考えてみます。※個人の勉強・趣味としての訳であり、不正確なところもあろうかと思いますので、転載はお控えください。

‘The Hill We Climb’ (私たちが登る丘)

When day comes we ask ourselves,
where can we find light in this never-ending shade?
The loss we carry,
a sea we must wade
We’ve braved the belly of the beast
We’ve learned that quiet isn’t always peace
And the norms and notions
of what just is
Isn’t always just-ice

夜明け時 私たちは自らに問いかける
この終わりのない暗がりのどこに光を見つけられるのかと
私たちは失ったものを抱え
海を歩いて渡らねばならない
私たちは危機に立ち向かってきたし
沈黙が常に平和とは限らないと学んできた
何が正しいのかを規定する
社会の基準や意見が
いつも正しいとは限らない

  • day: 夜でない時間帯を指す。when day comesなので、夜が明けるとき。
  • shade: 光が物体に遮られることで生まれる暗がり。shadowは、光が物体に遮られることでできる輪郭のはっきりとした影で、影が形作る像に焦点を置いている。4行目のwadeと脚韻 (end rhyme) を踏んでいる (shade-wade)。【以下、Teacher’s Collegeの授業内で出た意見: 明示されてはいないものの、「終わりのない暗がり」については、直近では新型コロナウイルスの猛威、広くとらえるならアメリカの歴史上のあらゆる災厄を指すとも解釈できるかも?】
  • the belly of the beast: 非常に悪い状況、危険な最中であることを指す。旧約聖書「ヨナ記」をルーツとする表現。怒れる主によって引き起こされた荒波を静めるため、船から放り投げられたヨナが巨大魚の腹の中に三日三晩とどまっていたという内容がこの表現の背景にある。【以下、TCの授業内で出た意見: ただ、文字通り「巨大獣の腹」と解釈して、そこから抜け出そうともがく、といった意味にとらえることも可能。】
  • norms and notions: 頭韻 (alliteration) を踏んでいる。
  • just is / justice: キーフレーズ。ここも韻を踏んでいる。というかほぼ同音。

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And yet the dawn is ours
before we knew it
Somehow we do it
Somehow we’ve weathered and witnessed
a nation that isn’t broken
but simply unfinished
We the successors of a country and a time
where a skinny Black girl
descended from slaves and raised by a single mother
can dream of becoming president
only to find herself reciting for one

それでも夜明けは私たちのもの
もう間もなくだ
どうにかして私たちはやり遂げる
どうにかして私たちは切り抜け そして目撃してきた
壊れているのではなく
ただ未完成である国を
私たちは とある国 とある時代の後継者だ
その国では 奴隷の子孫でありシングルマザーに育てられた
痩せこけた黒人の少女が
大統領になることを夢見て
その人のために詩を朗読している

  • before we knew it (=the dawn is ours): 私たちが知る前に夜明けは私たちのもの、ということは自分たちが気づく間には夜明けは私たちのものであるということで、「もう間もなく」。もっといい訳もありそうですが。
  • we / weathered / witnessed: ”wi” “we”という音が重なり、前へ進むリズムが生まれる。
  • We, the successors of a country and a time: 同格表現。We = the successors of a country and a time
  • only to find: …only to find~ で「…だが、~だと分かる(気づく)」という意味。

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And yes we are far from polished
far from pristine
but that doesn’t mean we are
striving to form a union that is perfect
We are striving to forge our union with purpose
To compose a country committed to all cultures, colors, characters, and conditions of man.
And so we lift our gazes not to what stands between us
but what stands before us
We close the divide because we know to put our future first,
we must first put our differences aside
We lay down our arms
so we can reach out our arms
to one another
We seek harm to none and harmony for all.

そう 私たちは洗練からはほど遠く
清純からもかけ離れている
しかし私たちは
完璧な連合を作ろうともがいているのではない
私たちは目的を持つ連合を築こうと努力し
人の持つあらゆる文化 肌の色 性格 状況に 心を傾ける国を作りあげる
だから私たちの間に立ちはだかるものではなく
私たちの前に立つものにまなざしを向ける
分断を縮めるのは 将来を第一に考えるために
まず差異を脇へどける必要があると知っているから
武器を下ろせば
お互いに向けて
腕を伸ばすことができる
私たちは誰も傷つけず皆を調和させようとしている

  • polished / pristine: pで頭韻。そこから2行下のperfect / purposeも同様の効果あり。perfect/purposeは意味の上でもちょうど対になっている。
  • compose / country / committed / cultures / colors / characters / conditions: 怒涛のcの頭韻。これだけ重ねるとパワーが非常に増す。意味の上でも最も重要な内容のひとつ。
  • because we know (to put our future first), we must…: to put our future first は副詞的用法、knowの内容はwe must first以下と解釈した。
  • harm / harmony: 見かけは似ているが中身は正反対に近い2語。

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詩はまだ続きますが、一旦ここで切りたいと思います。

2回目はこちら から。

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