‘The Hill We Climb’ (2)

英語学習

引き続き、アマンダ・ゴーマンさんの詩です。ちょうどTeacher’s Collegeの授業でもこの詩の一部を扱い、先生が用意した名詞や冠詞の穴埋め問題を皆で解きました。問題を解いているときも、自分で訳しているときも思ったのですが、彼女の詩は覚えやすいんですよね。暗唱まではいかないにしても、どんな表現を使っていたかは日が経ってもなかなか忘れません。それほどに質の高い詩なのだと感じます。朗読パフォーマンスはこちらから

前回の記事はこちらから。

以下、私自身で訳を試みながら、思わず唸ってしまった詩のテクニックや使われている言葉の背景について考えてみます。※個人の勉強・趣味としての訳であり、不正確なところもあろうかと思いますので、転載はお控えください。

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Let the globe, if nothing else, say this is true:
That even as we grieved, we grew
That even as we hurt, we hoped
That even as we tired, we tried
That we’ll forever be tied together, victorious
Not because we will never again know defeat
but because we will never again sow division

地球には せめて これが真実だと言わせよう
私たちは悲しんだとしても 成長したと
傷ついたとしても 希望を持ったと
疲弊したとしても 挑んだと
これからは永遠にひとつに結びついて 勝ち誇るのだと
それは 二度と敗北を知ることがないからではなく
決して分断の種を撒くことがないからだ

  • if nothing else: 他になくてもこれだけは言える、という時に使える表現。その前のglobeは「世界」あたりが収まりの良い訳だったかもしれません。壮大な規模で「地球」としてみました。
  • that even as we grieved, we grewからの3行: すべてthis is trueのthisが指す内容。grieved-grew, hurt-hoped, tired-triedがそれぞれペアとなり、語頭の発音を揃えつつも意味上では反対の内容を指すように工夫されている。先に暗い内容を、後に明るい内容を持ってくるのも、希望に向かって進む詩全体のイメージと呼応している。

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Scripture tells us to envision
that everyone shall sit under their own vine and fig tree
And no one shall make them afraid
If we’re to live up to her own time
Then victory won’t lie in the blade
But in all the bridges we’ve made
That is the promised glade
The hill we climb
If only we dare

聖書が私たちに思い描かせるのは
誰もが皆 自分のぶどうといちじくの木の下に座り
何者にも自分たちを恐れさせはしないということ
もし自分の人生にふさわしく生きようとするなら
勝利は刃に宿るのではなく
私たちが架けてきた全ての橋に宿る
それは約束された森の空き地
私たちが登る丘
勇気さえあるならば

  • everyone shall sit under their own vine and fig tree: 旧約聖書ミカ書4章4節に同様の表現あり。武器を農具に作り変えて生活する人々の、争いのない世界が描かれている。
  • the promised glade: the promise to gladeと表記されるケースもあるものの、文法と意味を考慮してthe promised gladeの方をひとまず採用。gladeは森の空き地を指すが、古い用例をたどると陽光の差し込む森の空き地という意味があり、森の暗がりの中でぽっかりと空いた光ある場所というイメージを持つとふさわしいかも。

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It’s because being American is more than a pride we inherit,
it’s the past we step into
and how we repair it
We’ve seen a force that would shatter our nation
rather than share it
Would destroy our country if it meant delaying democracy
And this effort very nearly succeeded
But while democracy can be periodically delayed
it can never be permanently defeated
In this truth
in this faith we trust
for while we have our eyes on the future
history has its eyes on us

というのも アメリカ人でいることは私たちが継承する誇りというより
私たちが踏み入る過去であり
それをどう修復するかだ
私たちは国を分かち合うよりも
国を揺るがす力を目の当たりにしてきた
その力が民主主義を遅らせるならば 私たちの国は崩壊するだろうし
この試みは成功する手前まできていた
しかし 民主主義はたびたび遅れることがある一方で
永遠に破られることは決してない
この真実において
この信念において 私たちは信じている
というのも 私たちが将来に目を向けている一方で
歴史は私たちに目を向けているからだ

  • We’ve seen a force that would shatter our nation rather than share it (=our nation). (We’ve seen a force that) would destroy our country if it (=the force) meant delaying democracy, and this effort very nearly succeeded. と解釈。“nearly succeeded”だけでも「成功しかけた」という意味になるが、“very nearly succeeded”とあるので、「成功するまさに寸前のところ」という差し迫ったイメージ。
  • periodically delayed / permanently defeated: 語頭の音が揃えてあり、かつ 断続的/永遠 と言葉を対比して使っている。
  • faith / truth: faithは神への信仰(心)、truthは虚偽とは対比関係にある真実という区別がある。この両方を引き合いに出して、民主主義は決して破られないと強調している。

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This is the era of just redemption
We feared it at its inception
We did not feel prepared to be the heirs
of such a terrifying hour
but within it, we found the power
to author a new chapter
to offer hope and laughter to ourselves
so while once we asked,
how could we possibly prevail over catastrophe?
Now we assert
how could catastrophe possibly prevail over us?

今は償いにふさわしい時代
私たちは始めから恐れ
そのようなあまりに恐ろしい時の
後継者となる心づもりができていなかった
しかしその最中で 力を見つけた
新たな章の書き手となる力を
自らに希望と笑い声を与える力を
だから かつてはこう尋ねた
どうすれば災難に勝てるのかと
しかし今は 断言する
どのようにして災難は私たちに勝ち得るかと

  • the power / to author a new chapter / to offer hope and laughter to ourselves: 文学的で好きな表現の一つ。私たちが新しい1章の書き手になる、というのは年代記の中心人物になれるような気持ちがしてワクワクする。また、「希望と笑い声」は、アマンダさんの考える幸福の重要な要素なんだと読み取れる。
  • prevail over: ~に勝る。winと比べた場合、prevail over~は「困難や障害を乗り越えて勝つ」という意味が加わる。

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どんな締めくくりになるか楽しみです。

最終回はこちらから

Photo by Janus Clemmensen on Unsplash