‘The Hill We Climb’ (3)

英語学習

アマンダ・ゴーマンさんの詩の最終回です。日を空けずに一気に訳したほうが良いかと思い、今回で終わりまで見ます。朗読パフォーマンスはこちらから

以下、私自身で訳を試みながら、思わず唸ってしまった詩のテクニックや使われている言葉の背景について考えてみます。※個人の勉強・趣味としての訳であり、不正確なところもあろうかと思いますので、転載はお控えください。

1回目はこちら / 2回目はこちら から。

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We will not march back to what was
but move to what shall be
a country that is bruised, but whole,
benevolent, but bold,
fierce, and free
We will not be turned around
or interrupted by intimidation
because we know our inaction and inertia
will be the inheritance of the next generation
Our blunders become their burdens
But one thing is certain:
If we merge mercy with might,
and might with right,
then love becomes our legacy
and change our children’s birthright

私たちは過去に進軍することはないが
未来へと向かう
傷を負ってはいるが 欠けてはいない国へ
情け深くも 大胆で
熱烈で 自由な国へ
脅しによって振り向かされることもなければ
邪魔をされることもない
というのも 私たちは 活動せず怠慢であることが
やがて次の世代の遺産となると知っているから
私たちのしくじりは 彼らの重荷となる
しかし ひとつ確かなことがある
もし私たちが慈悲と権力を合体させ
権力と権利を溶け合わせるなら
愛が私たちの遺産となり
子どもたちが生まれ持つ権利を変化させる

  • what shall be: shallは前の行と対比して未来の意味を表す。march backとmove toの違いも面白く、marchは軍や兵士が規律通りに行進する、あるいは集団が抗議活動を行うイメージで、moveは進歩する、行動を起こす、新しい場所へ移るという堅苦しさのとれた自由な歩みという印象になる。
  •  benevolent / bold, fierce / free: 頭韻を踏んでいる。
  •  mercy / might, might / right: 見事な言葉の並び。mergeという単語自体が「融合する」という意味を持っているが、発音そのものも似た音を重ねていくことで、言葉が確かに合体していく感覚を得られる。

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So let us leave behind a country
better than one we were left with
Every breath from my bronze-pounded chest,
we will raise this wounded world into a wondrous one
We will rise from the gold-limbed hills of the west.
we will rise from the wind-swept northeast
where our forefathers first realized revolution
We will rise from the Lake Rim cities of the midwestern states,
We will rise from the sunbaked south
We will rebuild, reconcile and recover
and every known nook of our nation and
every corner called our country,
our people diverse and beautiful will emerge,
battered and beautiful

だから 国に残したい
私たちに残された以上の国を
私のブロンズ色の鼓動する胸が息を吸うと
私たちは この傷を負った世界を素晴らしいものへと高めるだろう
西部の黄金色の姿をした丘から立ち上がる
風吹きすさぶ北東から立ち上がる
そこは私たちの祖先がはじめて革命を成した場所
中西部の州の 湖畔の街から立ち上がる
陽の照り付ける南から立ち上がる
再建し 和解し 回復する
私たちの国の どんなあらゆる片田舎も
私たちの国と呼ぶ どんな片隅にも
多様で美しい国民が出現するだろう
何度打ちのめされても美しい国民が

  • we will raise / we will rise: 他動詞のraiseと自動詞のriseが使われている。「(私たちが)立ち上げる」と「(私たちが)立ち上がる」。以下は同じ英語表現でアメリカ各地に言及しているが、すべて自然に関連する言葉を入れている。”gold-limbed hills” (西部の黄金色の丘陵地)、”wind-swept” (風が吹き荒れる北東部)、”the Lake Rim” (周囲が湖の中西部)、”sunbaked” (日照りの南部)。
  • the west: アメリカ西部。ミシシッピ川以西の州すべてに該当か。
  • northeast: アメリカ北東部。ニューイングランド6州とニューヨーク州、ニュージャージー州、ペンシルベニア州を指すと考えられる。建国の母体となったエリア。
  • the Lake Rim cities: 五大湖を囲む州のこと。イリノイ州、インディアナ州、ミシガン州、ミネソタ州、オハイオ州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州あたりを指すと考えられる。
  • the south: アメリカ南部。厳密な定義はないが、テキサス州からノースカロライナ州あたりまでを指すか。
  • rebuild, reconcile and recover: すべてre-から始まる単語を畳みかけるように使っている。「もう一度」という再起をかけた強い思いを感じ取れる。
  • every known nook of our nation: 訳しにくいが、「アメリカの片田舎であっても私たちの知る限りすべての場所」ということで、あらゆる片田舎と簡潔にまとめた。
  • Our diverse and beautiful people will emerge. Although battered, they are beautiful. と並び替え、言葉を足すと分かりやすくなるかも。
  • batter: 連打する、めった打ちにするという意味。何度も辛酸をなめてきたが、それでも美しく立ち上がる国民という不屈のイメージを呼び起こしている。

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When day comes, we step out of the shade,
aflame and unafraid
The new dawn blooms as we free it
For there is always light,
if only we’re brave enough to see it
If only we’re brave enough to be it

夜明け時 私たちは暗がりから踏み出す
燃え立ち 恐れずに
新しい夜明けは 私たちがそれを解き放つとき 花開く
というのも 光はいつもあるからだ
私たちが勇気を奮い立たせ その光を見ようとするならば
私たちが勇気を奮い立たせ その光になろうとするならば

  • When day comes: 詩の最初と同じ表現を使い、締めくくりに向かっている。
  • If only we’re brave enough to be it: 詩の冒頭2行目の問いかけ “where can we find light in this never-ending shade?” への答えに相当。自分たち自身が光になることで、国の夜明け、国の新しい希望になることができるという締めになっている。

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最終部を訳してみて、特に胸に響いたのはこのページの初めで訳した部分でした。未来へ向かう理由として、「私たちがしくじれば、次の世代の重荷になると分かっているから」と言っているところ。まだ非常に若いアマンダさんが、自分亡き後の世界を第一に考えていることに感嘆しました。広く深い視点でアメリカという国を見ているに違いありませんね。

全体を通して、考え抜かれた言葉選びと心にしみるような情景描写と励ましのメッセージがこの詩を忘れがたいものにしています。適度に抽象性があるところも (具体的な事件や出来事に言及しないところ)、この詩が時代を問わずに継承されていく要因となりそうですね。

Photo by Jackson David on Unsplash